2017年のchausser(ショセ)のデザイナー・前田氏への貴重なインタビューを再掲★

みなさんこんにちは!

以前ground南船場店で開催したchausser(ショセ)受注会の際に、
デザイナーの前田氏へchausserを始められたきっかけや、制作のアイデアについてのインタビューをさせて頂きました。

こちら貴重なインタビューですので再度掲載させていただき、今年も予定しておりますchausser受注会への期待を高めてまいりましょう♪


< 〜chausserを始めたきっかけ編〜 >

―― “履く人がいつまでも愛着の持てる靴”をブランドコンセプトに掲げられているショセですが、その言葉のとおり、経年変化し、履くごとに革の表情を楽しめる魅力的な靴を多くつくられています。そういった靴をつくろうと思ったきっかけや経緯を教えてください。

(前田氏/以降:前)ショセを始める前はメンズで別のブランドとしてやっていた時期が2年弱あるんですが、そこからレディースも始めるにあたってショセというブランドを2000年に立ち上げました。
もともとトラッドやアンティークな家具が好きだったのでこういう風なものをつくりあげていきたいというのはぼんやりとあったんですが、それがはっきりと見えたのは画家ノーマン・ロックウェルの絵を見たときでした。
ロックウェルの絵では30〜60年代ぐらいの当時アメリカで生活していた人たちが描かれているんですけど、その人たちが履いている靴がものすごくリアルに描かれていて。
それを見たときに、こういう靴が作りたいんだなっていうのがぱっと閃いたというか、今までぼんやりしていたものが明確になりました。 なので、そういった靴をつくるにはどういう素材を使えばいいのか、っていう風に考えたときに、ナチュラルコードバンやバケッタレザーをを取り入れるようになり、製法も長く履けるというところで、はじめはグッドイヤーウェルト製法を中心にやっていましたね。 今はちらほらあると思うんですけど、当時はレディースでグッドイヤーの靴っていうのはほどんどなかった。


 
<chausser・デザイナー前田洋一氏>
 

―― ではロックウェルの絵を見て、レディースでもメンズっぽい靴を始めようと思ったんですか?

(前)そうですね。レディースを始めようと思ったときに、エレガントな靴は方向性として違うな、自分の世界観ではないなっていうのがあって。トラッドをベースにしたものをどういう風にレディースに落とし込んだときに上手く表現できるのかなっていうので、ロックウェルの絵がイメージにはありました。
 

―― 今でこそメンズライクなデザインの靴を女性が履くのは一般的になりましたが、それこそ前田さんが靴づくりを始められた当初は多くなかったと思います。なぜそこに方向を向けられたんですか?

(前)自分が好きだから、これかなって感じでした。
こういうメンズっぽい靴を女の人が履いてもいいんじゃないか、履いてもらえると嬉しいなっていう感覚だったと思います。
 

―― その時にイメージする特定の人物像やモデルはいたんですか?

(前)具体的にはいないですね。 ただ、ロックウェルの絵で女の子がサドルシューズを履いてたりだとか結構あるんですけど、そういう雰囲気っていいなとは思いました。
 

 

<サドルシューズを履く女性の絵>
出典:http://www.michaelarnoldart.com/Norman_Rockwell.htm

―― ショセの靴はデザイン的にもアメリカントラッドといった雰囲気がありますが、ロックウェルの絵に出会う前からそういう雰囲気は好きだったんですか?

(前)靴で言うと一番好きだったのはイギリスの靴ですね。
アメリカの靴もいいんですけど、ちょっと野暮ったいというか。すごく頑丈でいいとは思うんですけど。
イタリアの靴は男からするとちょっといやらしい感じがする。
ちょうどいいのがイギリスだった。造りもしっかりしていて、シルエットとかを含めて見るとイギリスの靴が一番かっこいいなと思いました。 コテコテなアメリカの靴というよりかは、ちょっとヨーロッパに寄ったほうが好きでしたね。
 

―― たとえば定番のC247など、トゥが丸くてノーズが長いデザインの靴にそういったイギリスっぽさやトラッドな印象を感じます。
デザイン面の影響はそういったところから受けているんですか?

(前)トラッドをレディースでやりたいと思ったときに、既にそれを取り入れたブランドはいくつかあったんですよね。
でもそれってメンズの木型をそのままレディースに落とし込んでいるところがほとんどたったと思うんです。
レディース用に木型をアレンジしていない。つまり、サイズが変わっているだけなんですよね。
それだとなんかちょっとつまんないなっていうのはあって。
レディースのトラッドでも、女の人から見てあんまり男っぽくならないようなものにしたいなっていう想いもあって、レディース用の木型は作りました。その時に捨て寸を長くしたらよりシルエットも格好よく見えたりするのかな、っていうのでノーズの長いデザインのものが多いと思います。
メンズをそのまま落とし込んじゃうと捨て寸の短いカチッとした普通のトラッドな靴になってしまうので。
そうならないように、トラッドでも女性らしさが出るようにと、今でも木型は特にそうしています。


<定番のレースアップシューズ「C-247」>
 

< 〜制作アイデア編〜 >

―― ショセの靴を愛用している人はたくさんいらっしゃいますが、みなさん服装の系統が様々であったりします。デザインを起こす際は、日常的に履きやく合わせやすいといったファッションとしての面も意識されてるんでしょうか?

(前)シンプルな靴が多いので、ナチュラルな服にもモードっぽい服にも合う、その人のコーディネートによってうまく合うようになればいいな、という想いはあります。
 

―― 先ほど、C247はメンズをそのまま落とし込むのではなく木型から変えたとおっしゃられていました。他にも定番でヒールのサイドゴアシューズなど、メンズとレディースが合わさったようなデザインがありますが、そういったアイデアが生まれるのはどんな時なのか教えてください。

(前)職業柄いつも考えてはいます。ふとした時に思いついたものはメモしていますね。サンプル作成の時期に入ると2、3日自宅に籠って、考えていたものを自分の中で構築します。これはいらないかな、これは必要かな、とアイデアを添削してシーズンのコレクションにしていってます。
なのでこういう時にアイデアが浮かぶ、という決まった感じではないです。 トレンドを追う商品でもないですし、日常の中で履いてもらいたい靴なので、特にテーマは設けていません。
 

―― トレンドはあまり意識してつくられてないということでしょうか?

(前)皮や素材では流行があるので、そういうのは皮の展示会で気になったものを、この素材は自分だったらこういう風に使うかなっていうのは発想して取り入れたりしていますね。
 

<インタビュー陣(左)とchausser・デザイナー前田洋一氏(右)>

―― アイデアは日常から少しずつ出てきたものから絞り込んでいるとのことでしたが、 今回の新作はどういった考えのもとでデザインされたのでしょうか?先ほどおっしゃっていたようにテーマは特に決められていないんですか?

(前)毎シーズンのテーマはよく聞かれるんですが、特に設けていないです。
なぜかというと、靴って小さいじゃないですか。デザインする面積も小さい。その中に何かテーマを落とし込もうとすると、制限がかかりすぎて表現しづらくなる。
それは(テーマを設けるのは)自分にはできないなっていうのであまりテーマとかそういうのは決めてないです。
そもそも靴自体が機能性とかを考えると色んなデザイン面に制限があるんですよね。この機能を活かすにはここはこうしちゃいけないとか、こういう風に作らないといけないとかっていう制限があるので。そこにさらにテーマを加えてしまうと何も考えられなくなってしまう。
なので、よりシンプルなものを作りたいなとか、そのシーズンに自然と出てくる気分やアイデアで作っています。今回の新作みたいに、イタリアのカーフを見てこういう風に使ってみたいなっていう、素材から発想するパターンもありますね。

 

―― 洋服や他のものに比べて靴は身に付けるスパンが長いと思うんですが、その中でもショセの靴は特に“長く履ける”というのが特徴であると思います。 その辺はテーマとか関係なく、やはり長く使ってもらいたいという前田さんの想いからきているものなんでしょうか?

(前)そうですね。長く履いてもらえるってことはトレンドとかと関係のないところでもあるので。作るときに一番重要視するのは木型なんですけど、木型が良くなければいくらデザインが良くても“良いもの”にはなっていかないんですよね。
木型が良ければシンプルなプレーンな靴でも格好良く見える。そういうところでまず木型は重視しています。
はじめにこういう靴を作りたいなというイメージがなんとなくあって、今度はそれを逆算していくんですよ。この靴を作るためにはこういう木型が必要だな、製法はこれがいいな、それにはこんな素材が必要だなと。
で、さらに今度は履きこんだあと、作ったものがこうなってほしいっていう先を考えるんですよね。
そこからまた逆算してっていうのを考えながらやっています。

 

―― デザインの段階で履き込まれた形をイメージされているんですね。コードバンとかもそういったプロセスで使われているんでしょうか?

(前)そうですね。コードバンはまさに、履きこんだ靴をつくるにはこういう素材、っていうところからナチュラルコードバンとかは使っています。

 

<トラベルシューズについて〜 >

―― 昨年(2016年)新たなラインとしてトラベルシューズを発表されました。防水性のある革を使用した靴ということで新しい発想に衝撃を受けましたが、どういった背景の元生まれたのか教えて下さい。

(前)年2回海外の展示会へ行くんですが、毎回バッグにサンプルをパンパンに詰め込んで自分の私物は必要最低限にして持って行くんですね。でも展示会用の革靴も必要だし、搬出入時はやっぱりスニーカーみたいな楽なものを履きたいんです。
他の旅行者でも同じような経験している人はいるんじゃないかなと思いまして。 昼はたくさん歩きたい格好で。でも夜はレストランとかでちょっとオシャレに食事したいっていう。
そこで兼用できるものがあったらいいなって、自分が海外に行ったときに思ったんですよね。
そうなると、デザインがシンプルでより履き心地が良いものがいい。ショセは革底メインにしてますけど、やっぱりラバー底のほうが雨が降ったときにも対応できていいなと思ったんです。そこで普通のゴム底だったらインパクトがないな、あと機能的にもどうかなっていうのもあってヴィブラム社に話をしたら、オリジナル作りますよって言ってもらえまして。そこからトントンと出来あがっていったという感じです。

 

―― トラベルシューズを作る上で一番苦労された点はありますか?

(前)やっぱり底材でしたね。オリジナルで型を起こすのが初めてだったので時間もかかりましたし。
あと、ただ靴を売る、というところに少し限界を感じていたので、そういった面を少し楽しくさせたかった。靴のデザインだけでなくト−タルで楽しんで欲しいと思い、今回ブランドのパッケージやシューズバッグを作ったりしました。

 

< 〜靴職人である父親の存在編〜 >

―― 靴を作るにあたって、影響を受けた人物はいますか?

(前)親が靴職人だったので、気付かないうちに自然と影響を受けていたと思います。昔はハンドメイドだったんですが、自分が物心つく頃は既製品を売ってお店の裏で毎日靴の修理をしていました。そういう風景を子供のときからずっと見ていたので、今でも記憶に焼き付いています。職人だったので商売が下手な人で。いいものを売りたい、こういう靴じゃだめだっていう目線でモノを仕入れていたので、今思うと靴屋としてはそんなに儲かっていなかったと思います。ほんと職人気質(かたぎ)でしたね。

 

―― 修理の風景をよく見られていたということですが、修理で直してる靴というのはある程度履き込まれた靴だと思います。その靴を修理する光景が良く見えた、ということでしょうか?

(前)はっきりとは覚えてないんですが…修理で持ってこられた靴って、当時はきっといい皮を使っていたと思うんですよね。手縫いなのでつくりもしっかりしている。そういう靴の雰囲気を見ていたんだろうなと思います。

 

―― お父様もトラッドな靴を作られていたのでしょうか?レディースも取り扱われていたんですか?

(前)メンズだと、昔はオーソドックスなプレーントゥやストレートチップっていうトラッドな靴がほとんどだったと思うので、それをグッドイヤーウェルト製法の手縫いでやってましたね。レディースだとシンプルなパンプスが多かったと思います。木型は今でも使えるなっていうものも結構ありますね。

 

―― 木型もお父様から影響を受けているんでしょうか?

(前)そうですね。でも親は木型を一から削っていたわけではなく、購入して使っていたと思います。オーダーメイドなので、その木型をその人の足に合わせていました。幅の広い人だったら木型に皮を何枚か重ねて、それに合わせて靴をつくるっていうやり方だったと思います。親の木型は何台かもらってきているんですが、今でも皮が貼ったままのものもありますね。

 

―― 代々受け継がれる木型、とても興味深いです。靴づくりはお父様からの影響が大きいということですが、昨今の靴業界では若いデザイナーさんが次々出てきていると思います。そういった方々から影響を受けたりすることもあるのでしょうか?

(前)ありますね。 世界観がちゃんとモノに繋がっていて、靴もすごくかっこいいブランドがあって。そういうのを見ると尻に火が着くというか、がんばらないとだめだなって思います。だんだんそういう人が出てくるので、このまま終わってしまうのはまずいなと焦るし、刺激になっています。

 

―― 最後の質問になりますが、今後の新作のアイデアはすでにありますか?

(前)ショセは展示会が終わったばかりなのでこれから考えていく予定ですが、トラベルシューズは今後ひとつのブランドとして確立できるようにしていきたいと思っているので、バリエーションを増やしたり、新しい木型や底材を作ろうかなと思ってます。

 

―― トラベルシューズの新作、とっても気になります!
インタビューは以上になります。新作のお話や制作秘話など貴重なコメントが盛りだくさんで、とても充実したインタビューとなりました。貴重なお時間、本当にありがとうございました!

(前)ありがとうございました。

 


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以上が、2017年の受注会でのインタビューでした!
前田氏の靴作りへの思いや、アイデアをどのように生み出されているのかを、たくさんお話しいただきました♪
こういったお話しを聞いてからショセやTRAVEL SHOSEを履くと、感慨深いものがありますね!!
次はどういった新作が生まれるのか、楽しみです♪